世の中には予期できない出来事が起こるものです。2001年9月11日にニューヨークで起こった同時多発テロ事件も、誰もが予測できませんでした。「金」の世界では、1980年1月21日の史上最高値850ドル(円建て6495円)です。前年の同月は200ドル台でしたので、市場関係者の誰もがここまで金価格が上昇するとは思いませんでした。

   そんな中で、将来「金」がどうなるかを予測することは、将来世界の政治・経済がどうなるかを予測するに等しく、大変難解な問題です。

   しかし、世の中がどのように変化しようとも、「金」の特質は永遠であり、現状の実態すなわち需給関係、歴史的退蔵量等は長い目で見れば変化するものの、短期的には大きく変化することはありません。確実にいえることは、「金」はどんな形に加工されようとも消失してしまうものでもないので、毎年鉱山から生産される「金」の量だけ、地上在庫が増えていくことです。それ以外は全て予測になりますが、私が、「金」と40年以上の付合いの中から学んだ体験をもとに辿ってみましょう。

   人類が6000年かけて掘り出した「金」は、約15万トンであり、これを1ヶ所に集めるとオリンピックプール3個分で納まり、現在の金価格1グラム2500円で金額に換算すると375兆円にしかなりません。すなわち、日本の個人金融資産(1500兆円)の25%ぐらいですから、日本人が世界にある「金」全てを買い占めることもできるぐらいの量です。「金」はこのように稀少であるがゆえに価値があるのです。

   昔から錬金術で「金」を作り出そうとした人は数限りないが、人類の手で作ることはいまだにできません。したがって、毎年金鉱山から生産される量(2005年約2500トン)が、今までにある地上在庫15万トンに上積みされるだけです。

   私が「金」の将来を占う意味で最も関心が高いのは、これから何十年、何百年後、「金」の供給はどうなるのかということです。「金」の埋蔵量にも限界があり、今まで掘り出された量ほど「金」は現在レベルの採掘方法では残っていません。金価格が現在の価格の数十倍にでもなれば、海水中にも「金」が含まれていますので、新たな採掘方法が発明される可能性はあるかもしれません。

   いずれにせよ、現在の地上在庫の倍、30万トンに達するには、これから100年近くかかるのではないでしょうか。そして、需要が供給を上回る場合は、中央銀行の売却や個人退蔵量の売却、さらには宝飾品や工業用製品のスクラップからの回収がさかんに行われることになるでしょう。

   将来的に「金」の供給は、現在と大きく変わることはないと考えますが、需要の方はどうなるでしょうか。レーニンは「将来『金』の用途は公衆便所の壁のメッキに限られるだろう」と言いましたが、世の中がどう変わろうと、世の中に女性が存在する限り、レーニンの言った言葉は間違いです。それは、「金」は誰が見ても山吹色に輝き、美しく魅力があるからです。

   「金」の需要の大半は宝飾品需要であり、全体の需要の70%〜80%を占め、この割合は過去30年間ほとんど変化していません。

   世界の金宝飾品需要は、その年の金価格や世界各国の景気状況によって左右されますが、変化があっても10%程度の違いで、将来的にも安定した需要であることに違いはありません。

   今後発展途上国の開発により、世界経済が今より膨張すれば、金宝飾品需要は更に拡大されるでしょう。 工業用・歯科用需要は、新規需要も拡大されるが、「金」よりも安い素材を求めて代替品の開発も同時に進められるので、将来も量的には微増程度で大きな変化はないものと考えます。

   年々大きく変化するのが投資市場です。その年の政治・経済の動向に左右されるし、「金」の個人保有を統制していた国が自由化することによっても、大きな影響を受けます。当面は、中国が個人の「金」保有を自由化したので、中国人の「金」保有によって投資需要が急激に拡大される可能性もあります。

   「金」も商品ですので、金価格は供給と需要のバランスで価格が決まるのが原則です。将来の「金」の供給・需要は安定しており、特別な事(更なる大きなテロ事件や戦争、金本位制の復活、日本・中国政府の「金」大量購入、中央銀行の大量売却等)がない限り大きな変化はありません。仮に突発事項が起きても短期的に金価格が大きく動くだけで、長期的に見ればやはり通常の供給・需要のバランスの枠内に金価格は納まります。

   それでは、長期的に見た場合金価格を左右する要因は何か。それは「金」の生産コストです。長期的に見れば、安定した需要(宝飾品需要・工業用需要)がある限り金価格は生産コストを割ってまで下がることはありえません。世界のどの金鉱山も、金価格が生産コストを長期的に割った場合は、生産をストップします。「金」が人工でできない限り、現在の生産コストを大幅に下げることもできません。むしろ、世界的にインフレになれば、「金」の生産コストは上昇し、金価格もインフレにスライドして上がるのが通常であります。




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