● 公的部門からの供給
公的機関が保有している「金」は約32000トンで、地上在庫の約22%を占めます。
公的機関は1965年までは、むしろ「金」を購入する側であったので、供給には回らなかったのです。90年代に入ってから欧州を中心として中央銀行の「金」放出が目立っていますが、それ以前で記憶に残っているのは、1976年から1979年にかけて国際通貨基金(IMF)が発展途上国の援助資金捻出のために保有金の一部を売却したことです。さらに、1979年には、アメリカ財務省がドルの価値を支えるために360トン以上の「金」を売却していますので、IMFの売却と合わせて、この年は500トン以上の売却量となっています。
この時は、これだけの量の「金」を公的機関が売却したにもかかわらず、金価格は下がるどころか、放出する度に落札価格は上昇しました。オイル諸国が、目減りするドルから「金」に乗り換え、アメリカが放出する度に「金」を買い漁ったからです。
一方、90年代後半における中央銀行の「金」売却は、金価格下落の最大要因となっています。その中でも金市場に大きな動揺を与えましのが、1999年イギリスの中央銀行(イングランド銀行)が、415トンの準備金を放出することを発表したことです。金本位制で名を轟かしたイギリスまで「金」を見放すのかということで、同年の7月にロンドン金市場の金価格は252.80ドルまで下げ、1980年1月の最高値850ドルから現在までの最安値となりました。日本の金価格も同月1000円割れがでていますが、為替レートの関係で、日本の80年以降の最安値は、2ヶ月後の9月につけた917円です。
中央銀行が「金」をどこまで売却してくるのかは、金市場に与える影響は計り知れないものがあり、生産者や投資家の金価格に対する不安は払拭できませんでした。そんな中で、1999年9月26日に欧州15の中央銀行が、今後年間400トン(現在は500トン)、向こう5年間で2000トン以内に売却量を制限することを発表しました。(ワシントンで行われたG7の翌日発表されたので、この合意を「ワシントン協定」といいます)
● 中古金スクラップからの供給
過去10年間の中古金スクラップからの「金」供給量を見てみますと、500トン台から1000トン台と大きくバラツイテいますが、次のような要因が考えられます。
一つには、国の経済状態の悪化や戦争等の危機が発生したことによって、生活困窮者が金宝飾品を売却すること(例えば、1990年代初期の湾岸戦争後に大量の宝飾品が処分された)、もう一つには、金価格高騰時に中古宝飾品を売って換金する動きです(例えば、日本でも1980年1月に金価格が6000円/gを超えた時には、地金商の店頭でK18のネックレスやリング、純金の金杯・仏像等が大量に売却されました)。
また、使えなくなった家電製品やコンピュータ、工業用のスクラップからも「金」が回収されます。
● 生産者ヘッジ
生産者ヘッジの問題は、「ヘッジ」の場合には「金」の供給となりますが、逆に「ヘッジ解消」の場合は、「金」の需要となります。2002年の場合は、生産者のヘッジ解消によって423トンが現物需要に寄与しています。しかし、1990年代は鉱山会社は強力にヘッジ取引きを行い、1999年第3四半期には、現物市場にこれらの供給が約3300トン(「金」の鉱山生産量の15ヶ月分に相当)にもなったといわれています。
鉱山会社によって生産コストは異なりますが、現在の金価格で充分な利益が確保出来るのなら、中央銀行から「金」を借りてでも(ゴールド・ローン)、先に「金」を市場に売っておくこともできます。
結果的には、2000年代に入り金価格の趨勢が転換したことによって、鉱山会社はみずから首を絞めたことになり、株主等の要請によりヘッジはがし(解消)の方向に向かわざるを得なくなっています。
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